「秋風に、長く棚引いている雲の切れ間から、射し込んでくる月の光の、何と明るく清らかな事よ」と云う、藤原顕輔による月を詠んだ情趣に富んだ一首。秋風と、明瞭であったであろう月の光が心身に感じられる格調高い詠唱。
 但し、歴史を知る後世の我々にとってみれば、この和歌の爽やかさは、軈て壮絶な末路を迎える『貴族社会の黄昏の煌めき』としての意味合いをも含む。没落する王朝貴族文化の落日に吹く秋風と、雲間から射し込む月の光は、間もなく訪れる冷酷な『死』の予感すら感じさせる程に冷たくもある。藤原顕輔の死は1155年、壇ノ浦の戦いでの平氏壊滅は1185年、栄華を誇った奥州藤原氏滅亡は1189年、そして鎌倉幕府成立が1192年・・・。その歴史の中で、この一首は、ワーグナーの『神々の黄昏』で高名なバイエルン最後の王ルードヴィヒにも似た趣きすら感じさせる。