『楽』

              ・・・・・(書)一匹狸、 (背景画、音楽、構成)阿呆丸・・・・・

 タクラマカン砂漠と天山山脈の南麓に添って、遠くローマと西安を結ぶ重要なオアシス都市が点在している『シルクロード・天山南路』。嘗て『中国西域』と呼ばれたこの一帯では古来より東西交易が盛んに行われ、民族や文化の交流も隆盛を極めていた。殊に「春光不度玉門関」と王之渙の詩に詠われた河西回廊の果て、敦煌郊外の嘉峪関や玉門関の西に至ると、エキゾチシズム溢れる東西混交した文化が顕著となり、また、玄奘三蔵に代表される仏僧達がインドから仏教を東慚させるべく活動した地でもある為に、楽ソンに依って初めて穿たれ修行僧達の膨大な石窟群と化した『莫高窟』には、インドや遠くギリシャ・ヘレニズムの影響さえ垣間見える壁画が多く描かれている。また、琵琶を背後で弾く『反弾琵琶』の飛天壁画も有名である。
 一方、敦煌より西『天山南路』の中心都市クチャ(嘗ての亀茲国)郊外にも多くの壁画が描かれた『キジル千仏洞』が在り、このオアシス都市では非常に音楽が盛え『亀茲楽』とも呼ばれていた。インドから伝わった五弦琵琶を弾く飛天の壁画も描かれている。が、現存している五弦琵琶は世界に唯一、シルクロード文化が伝播した東の果ての我国、日本の奈良『東大寺・正倉院』にしか残されてはいない。
 「夜ともなれば壁画の飛天達が壁から出て来て、洞窟内が胡旋舞の調べに似た『楽』の音で満ち溢れたら、凄いエキゾチックだね」と、阿呆丸は壁画をレイアウトし『楽』の字を思い付いた。一匹狸は「けど、今はイスラム圏になっているから」と、竹筆のような筆を選び、洞窟内に充満する『楽』を『飛白体』的に描いた。